頭痛②~くも膜下出血~

頭痛について(その2)

~くも膜下出血~


<くも膜下出血とは>

私は脳神経外科専門医・指導医として長い間この病気と闘ってきました。しかしこの病気ほど医師としての無力感に苛まれる病気はありません。というのも発症したときにはその場で亡くなってしまう方も多く、病院に辿り着いても手術ができなかったり、手術をしても重い後遺症が残ってしまったりすることがあるからです。

病気の原因のほとんどが脳動脈瘤が突然破裂して脳の表面を覆っているくも膜という膜の下に大量に出血するために起こります。厄介なのは瘤が破裂するまではほとんどが無症状なのであらかじめ何か前兆があるということがないのです。巨人軍の若いコーチが練習中にくも膜下出血となり倒れて救急搬送された動画を目にされた方も多いのではないでしょうか。軽い頭痛があったとか、目が二重に見えたとかという前兆がある場合もありますがとても稀なことであり ほとんどがある日突然、さっきまで元気だった人が発症するのです。


<症状>

この症状は頭痛です。特徴は①突然発症である ②後頭部をいきなり殴られたような頭痛である ③今まで経験したことがないような激しい頭痛であるの3つです。これは研修医たちにも必ず頭痛診療で教える原則でこれを「救急外来に来た頭痛患者さんにはまず聞きなさい、聞かなかったら見落とすことになるよ!」と教えるような基本的な症状です。

もちろんいろいろな程度やバリエーションはあるのですが 今まで経験したことがないような激しい頭痛というのは大切なポイントです。頭痛持ちの方はたくさんいるので 普段の頭痛とは明らかに違うというのは見逃してはいけない大切なことです。これは患者さんにも知っていただきたいことでそういう場合には必ず程度が軽かったとしても頭痛外来を受診してください。明らかに経験したことのないようは激しい頭痛であれば最初から救急車を要請したほうがよいでしょう。0


<治療法>

治療はすでに出血してしまった血液を除去するというよりは 破裂してしまった動脈瘤を処置して2回目の破裂を阻止するということが主眼となります。もちろん出てしまった血液も脊髄や脳室で管を入れて少しでも外に出すような治療はしますが、この病気の一番の死因は2回目の破裂による再出血によるものなのでそれを処理することが大切です。

そのためには手術をすることになり 大きく2つの方法があります。

一つは従来からの伝統的な方法で 頭蓋骨を開けて顕微鏡を使いながら脳動脈瘤まで到達してそこにクリップをかけて止血するという「脳動脈瘤ネッククリッピング術」という方法です。とても繊細で難しい手術ですが 脳神経外科医はこれができるようになってやっと1人前と言われ6~10年ぐらいかかります。私も何百例かは行いましたが いつも緊張し何例やっても慣れるということはない手術でした。やっと自信がついてきた頃に 今度は全く新しい治療法が開発されました。それは血管内手術といって 頭蓋骨を開けたりせずに

鼠径部の太い血管の中にカテーテルという細い管を入れてそれをレントゲンを使って動脈瘤にまで誘導するものです。そこから瘤の中にとても小さいコイルを入れて中から固めて破裂しないようにするという「脳動脈瘤内コイル塞栓術」と言われるものです。私はこの手術をすることはできませんが、この新しい手術法を後輩たちがどんどん導入し技術を磨いていく過程は最初からみることができました。当初はいろいろな問題がありまだクリッピング術のほうが多く行われていましたが 私が勤務医を辞めた頃には立場が逆転してしまいました。医者としてたかだか30年ほどで 必死に修行してやっとできるようになった手術法が新しい手術法に取って代わられるという経験をしました。しかし私には残念とかもったいないとかという感覚は全くありませんでした。だれでも頭を開けられて術後も大変な闘病をするより、「私何かされましたか?」というような血管内手術のほうがいいに決まっています。血管内手術が簡単ということでは決してありません。リスクもありますし、その専門医が十分な数育っているわけでもありません。しかしどんどん成績は向上しています。まだまだ開頭しなければできない動脈瘤もありますので二つの手術法がこれからも残っていくものと思われます。


<予防>

最初に述べたように この病気は治療できずに亡くなる方も沢山いらっしゃるということが医師にとって最もつらい事ですし患者さんも無念だと思うのです。病院に辿り着いても前述の2つの手術ができない場合もあります。一般的にくも膜下出血を発症すると約3割は治療を受ける前、あるいは重症すぎて手術できずに亡くなってしまいます。4割は手術ができたものの何等かの後遺症が残って以前の生活より著しく質が低下してしまいます。残りの3割が手術も上手くいき数々の術後合併症も克服して元の生活に戻れる方となります。本当の意味でちゃんと治ってくれたという方は3割に満たないということです。

我々も夜中に呼び出され何時間も必死になって手術したのに3割では満足できる成績ではありません。意識が戻ってから「こんな体になってしまって、いっそ手術なんでしないで欲しかった」と患者さんから言われてこともあります。とても辛いことです。0

それではより治療成績をあげるにはどうしたらよいかというと 動脈瘤が破裂する前に見つけて手術をしてしまうということです。そうすれば成績は格段に上がりますが、痛くもかゆくもない脳動脈瘤を見つけるために脳ドックを受けましょうと思う方は少数派であることは否めません。さらに実際未破裂脳動脈瘤が見つかれば それはそれで健康な身体に侵襲的な治療を行うわけですから覚悟というものが必要になります。予防手術をしたのに001~2%の方は予期せぬ出血などで以前より状態が悪くなるという現実もあります。難しい問題です。

脳ドックについては別の機会にお話しさせていただいます。


<最後に>

頭痛は怖い頭痛と怖くない頭痛を鑑別することがまず大切ですので 頭痛のある方は一度は頭痛専門外来を受診してみてください。


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院長の檮木(うつぎ)です。 開業して今年の1月で丸3年を経過したことになります。前院長のあとを継承し、当院のモットーである「0歳から100歳まで優しく人を診る(人見)」を忘れないように診療して参りました。3年のうち2年間は新型コロナウイルスという我々が未だ経験したことのない難敵との闘いでしたが、患者さんやスタッフに助けられながら地域医療に貢献する難しさを実感しつつ診療してきました。開業当初はブログ